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それは、酒場での夕食どきのこと。 「…あ。………………コレきらい…」 お皿をフォークでつついていたゼシカが、急激に不機嫌になって呟いた。 隣に座っているククールがのぞきこみ、 「カリフラワー?何お前、そんなの嫌いなの」 「おいしくないんだもん」 「うまいじゃん。てかゼシカ、ブロッコリーは喰えたよな?ならこれも喰えるだろ」 「ぜんっぜんちがうわよ!とにかくヤダ食べられない。ククール食べて」 「しゃーねぇなぁ、子供かよ」 そんなことを言いながら「あ」と口を開いたククールの口に、ゼシカは当たり前のように カリフラワーを突き刺したフォークを突っ込んだりする。 目の前でその光景を見(せつけられ)ているエイトとヤンガスは、脱力したようにハハハ…と 乾いた笑いをこぼし視線をかわすのだが、同席者の微妙な雰囲気にはまったく気付かない2人。 「………ゼシカ」 しばらくして、ふいにククールが悪ふざけを思いついた時の声でゼシカを呼んだ。 「なに……ンむ!」 振り向きざまのゼシカの開いた口に、今度はククールが素早くフォークを突っ込んだ。 テーブルに肩肘をついて楽しそうにニヤニヤしながら、思い切り眉をしかめるゼシカを見ている。 困惑したまま口に入れられたものをモグモグと咀嚼して飲み込んだゼシカは、 やっと大きな声でククールにくってかかった。 「ちょっと!!何するのよいきなり!!」 「オレもきらいなものおすそわけ~~」 「…かっこつけてるくせにニンジンが食べられないの?」 ゼシカがじっとりとした目で、飄々としているククールをにらむ。 「だっておいしくないもん」 「まったく、子供みたいなんだから…」 わざとらしくため息をはきつつ、もう一度差し出されたニンジン付きフォークをパクリとくわえるゼシカ。 遠い目をしてナカイイネーと笑っていたエイトが、いっそ開き直って言ってみる。 「………ゼシカがあーんしてあげたら、ククール食べるんじゃない?」 その瞬間の、ゼシカの反応ときたら。 「だ…っ、誰がこんなバカにそんなことっっ!!!!やめてよねエイトッッ!!!!」 派手な音立てて椅子から立ち上がって、たちまち顔を赤くしている。 「おっそれいい案だなエイト!オレ、ゼシカちゃんが食べさせてくれるんならなんだって食べちゃうぜ~♪」 ククールまでニヤけヅラ下げてそんなアホな発言をするものだから、今度こそエイトもヤンガスも、 早くこの場をお開きにするため、ひたすら食べることに専念するしかなかった。 再び痴話ゲンカと言う名のじゃれあいをはじめる2人。 関わるとなんとなく損した気になるから、もう放っておこう。
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夜桜を見上げながらククールは、たいしてうまくもない缶チューハイを少しずつあおっていた。少し肌寒い。綺麗な夜月。脱いだ上着とマントは、膝の上で寝こける恋人にかけられている。暗黒神など足もとにも及ばない凶悪な美女3人の攻撃はククールの心に著しいダメージを与えたが、こうして静かな月明かりに照らされ桜を愛でるうち、激減していた心のHPもようやく回復しつつあった。もっとも、かいしんのいちげきを叩きこんでくれたとうの本人は、幸せそうに膝の上で丸まっている。時々寝言を言いながら腰に腕を回し抱きついてきたりするのでたまらない。この、無邪気でカワイイ恋人。好きだと思えば思うほど から回る。愛でようとすればするほど逃げられる。泣かせないためにめいっぱい大事にしていたはずが、知らぬうちに傷つけている。『――たまに想いをこめて言われるからこそ伝わるものじゃない? アイツのあれはなんていうかもう、とりあえずそう言っとけばいい、みたいな…』「…………きっつー」ククールは自嘲気味に呟き、苦笑いを浮かべた。彼女がそう思っていたことがショックなのではない。ぶっちゃけると「イタイとこ突かれた」のだ。当然のことながら、彼女に対するほめ言葉や愛の言葉にウソ偽りは一切ないし、彼女の言うようにおざなりでもなければその場しのぎでもない。本当にそう思うから言葉に出るまでのこと。…ただ。真剣でないのは、事実。…だったりする。これだから「サイテー」とか言われるのだ。自覚があるところにそのツッコミは非常に痛かった。確かに本音ではあるのだが、真剣ではない。いや、真剣に「言えない」。それが正しい。…そもそも思い返したって、自分たちの出会いからしてそうだったのだ。―――オレはゼシカを褒め、口説き、好きだと何度も口にする。―――ゼシカはオレのそんな態度をケイベツし、褒め言葉を無視し、愛の言葉を否定する。彼女がオレに惚れる以前も、オレに惚れたあとも、常にそうだった。お互いがその態度を絶対に崩さないことで、自分たちの関係は保たれていたんだ。…なぜかって?そりゃあオレ達2人して、素直じゃないし照れ屋だからさ。今さら、真顔で、真剣に、誠実に、心をこめて、「好きだ」なんて、言えない。本当にカワイイって、今のオレが言ったって信憑性は薄い。愛しいから抱きしめたって、ただのスケベとしか思われない。―――……だったら、だ。だったら、冗談混じりを突き通せばいい。本音だと受け取ってもらえなくたって、言葉に出しておけば、少なくともこの関係は保たれる。そう、まさに、『とりあえずそう言っとけばいい』……というわけだ。ウザイと思われるのは、まぁかまわない。むしろ本望だ。だけど、ゼシカがオレの微妙な「逃げ」に敏感に気付き、不安を感じていたことが正直辛かった。「言わなくてもわかるだろ?」なんて、カッコつけてるだけで実際は臆病者のセリフだ。本当のことは言葉に、態度に表わさないと伝わらない。「……好きだよ」眠ってる彼女にロマンチックに囁いてみたって、やっぱりいい加減男の戯言にしか聞こえない。やっぱり日ごろの行いは大事ですねーと、桜を見上げ誰にともなく呟いてみる。ククールは はあっと肩を落として大きなため息をついた。ゼシカが膝の上で身動ぎ、むにゃむにゃと言いながら身体を起こした。まだ半分夢の中で、さらに酒はほとんど抜けていないのだろう、正直ひどい顔だ。この乙女らしからぬ間の抜けた表情さえ本気で愛しいと思ってしまう自分に呆れる。しばらくぼ~~っとククールの顔を見つめ、半目になって再び目を閉じ、後ろに倒れそうになる身体を慌てて受け止める。引きよせて自分の胸に寄りかからせると、気持よさそうに身体を預けてきた。寝ぼけた声で「ククのにおい…」と言われ、思わず赤面してから舌打ちする。「……んん……」「…起きたか?」「んー…」「起きたらそろそろ帰るぞ」「やだぁ」「風邪ひくぞ」「さむぃ…」「……ったく……」大仰に息を吐いて、自分のかけた上着ごと抱きしめてやると、嬉しそうに笑って腕を回してきた。「んふふ…」「おじょーさま。飲みすぎですよ」「そんなことないもん…。…あー、またククばっかりいいの飲んでるぅ」脇に置いておいた缶を目ざとく見つけ、ゼシカが口を尖らせた。手を伸ばそうとするのを阻止し、「ダメだって。ほら、いい子だから帰って寝よう。な?」優しくさとしてみても、その手のあやし方は酔っぱらいを強情にさせるだけだ。「やだ。めんどくさい」「めんどくさいって、どうせルーラで帰るんだからお前は一歩も歩かないだろーが」「やだー。まだ飲めるんだから。のむー。くくーるといっしょにのむのー」「あああもう…わかったわかった…」そう言いつつ一瞬だけゼシカの頭をぎゅっと胸に押し付け、その隙に違う場所に置いてあった水を口に含んで、素早く彼女と口唇を合わせた。「んぅ…」こくり、とゼシカののどが波打つ。「んはぁ……おいしぃ…」「だろ」酒で乾いたのどに、水が一番おいしいのは間違いない。満足そうにニコニコするゼシカに何度か同じように水を飲ませた。そのまま舌を絡めあわせ、柔らかい身体をまさぐろうとしてしまうのは、やっぱりオレが変態僧侶だからなんだろうか。「……自分で言って凹むわ」「ん?」いや、そのありがたい称号を授けてくださったのは目の前にいる、天使の顔した小悪魔なのだが。「ゼシカちゃん。オレは今、ちょっとブロークンハートなの。聞いてくれる?」「んん」「オレ、大好きなオンナノコに嫌われちゃたんだ」「なんで?」「なんでだと思う?」少し首をかたむけて考えてから、悪意のない笑顔で楽しそうにゼシカは答える。「ククが、ばかで、エッチだから?」「正解」あはははは、とツボに入る酔っぱらいと複雑な表情の傷心男。「…そ、オレはバカだから、その子のことが好きで好きで仕方ないの。可愛くて可愛くて たまんないの。そんでいつも、好きとかカワイイとか言いまくっちゃうの」「うんうん」「そんでオレはスケベだから、すぐぎゅーってしたくなるし、チューってしたくなるし、 もっとエッチなことも、いつだってその子としてたいんだ」「ククのエッチ」無論 誰の話なのかはわかっていて、ゼシカは終始楽しそうにしている。「――――……だから、さ」ククールは半ば上の空で、ポツリと。「…もう言うのやめようかなと思ってさ…」「………………すきって?」きょとんとゼシカが尋ねる。「うん」「なんで?」「ウザイから」どうやらそうらしいから。色男の口の軽さは、恋に真剣な乙女たちにはどうにも不評だ。「……。…………………やだぁ……」いきなりゼシカが泣きそうな声で言ったので、ククールはぎょっとした。見ると涙目になりながらも、怒った表情でこちらをじっと睨みあげている。「やだ…そんなの…言ってよ…」ククールは面食らった。深く考えず口にしたのだが、どうやらゼシカの稜線に触れてしまったらしい。「いままでいっぱい言ってたくせに、いきなり言わないなんて、ずるい…」「ずるいって…」「……うざいなんて、ひどいよ…」「いや、それは言うのがウザイって意味じゃなくて、お前が…」「やだぁ……」「……」ゼシカが力のない腕で抱きついてくる。ククールは唖然とした。なんだこのカワイイ生物…じゃなくて。彼女の頬に手を添えて視線を合わせながら、「……言ってほしいか?」静かに尋ねると、ゼシカは素直に頷く。「言って…」「…好きだよ」微笑んでそう告げると、ゼシカは駄々っ子のようにプルプルと首を振った。「ちがうの…。……ちゃんと、言って…ちゃんと」その言葉の意味を考えて、ククールは彼女の瞳をじっと見つめる。酔った勢い。そうかもしれない。でも、そうでもしないと吐露できない本音だってある。ククールはゼシカの瞳を真正面から見据えて、その愛しい頬を撫でた。ゼシカの瞳は潤み、少し恥ずかしげに、でもまっすぐに、ククールを見つめ返す。「――――好きだ」いつもと同じ言葉なのに、口を開くのにひどく時間がかかった。そして、こんな風に目を見て告白するのは彼女と出会ってからいつ以来だろう、と思った。『想いをこめて言われるからこそ伝わるもの』まさにその通りだ。言葉の重み。それを身に沁みて思い知る。ゼシカが少し背伸びをしてきたので、身をかがめて口付けした。最初は戯れるように何度も軽く交わしていたものが、いつしか深く情熱的なキスに変わる。背中にあるコルセットの紐をほどくが、夢中になっているゼシカは気がつかない。そっと下から手の平を忍ばせて素肌を撫でると、悩ましい表情がククールを見つめる。「…オレはスケベだけど、ちゃんと、真剣に、ゼシカのことが好きだよ」「……うん……」「だから、こういうこともしたくなる」「………………」ゼシカは頬を染めて目線を逸らした。「それとも、こういうことはもうやめてほしい?ゼシカがそう望むなら、もうしない」また、ゼシカが子供のように無言で首を振る。「どうしてほしい?」「…やめるのは、やだ…」「じゃあこれからも、こういうこと、ゼシカにいっぱいしてもいいか?」そう言って柔らかいふくらみを優しく掴むと、ゼシカは身をすくめた。「………………………………いいよ……」羞恥に消え入りそうな声が聞こえ、ククールは破顔する。でも、とゼシカが小さく付け足し。「…………“ちゃんと”、して」ククールは一瞬虚を突かれ、それからわかった、と言って優しく笑った。「ちゃんとゼシカを抱くよ」おざなりなんかじゃない。でも、そう思わせないように。彼女を不安にさせないように。いつだって。「真剣に、ゼシカを愛する」ゼシカの頬が桜色になり、花が咲いたようにほころんだ。桜は、愛でられてこそ美しい。 関連SS 最強乙女
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14 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/04/22(火) 23 03 17 ID nLtL3eebO ククールの添い寝してやるはゼシカが100%断る事を前提とした発言だろうけど、 もしゼシカが断らずに「本当に?ありがとう、よろしく頼むわ」とか言ってたら どうなっていたんだろう… 15 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/04/22(火) 23 40 23 ID VyxK+EJn0 そのゼシカは間違いなくお色気MAX 16 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/04/22(火) 23 42 42 ID 8dq0O0U+0 物凄く動揺し混乱するククールの姿が目に浮かぶw 17 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/04/23(水) 01 54 14 ID baJfU3nj0 もしくは自分のお色気にまだ目覚めてないまっさらなゼシカ(←4コマネタ) ゼシカ(そうね…せっかくククールが気を使ってくれてるんだし。 やっぱりこの女神様なんだか怖いもの、例えククールでも、 誰かがそばにいてくれた方が安心して寝付けそうよね) 「本当に?ありがとう、よろしく頼むわ(にっこり)」 ククール(…ってコイツわかってねぇぇぇぇぇえええええ!!!!!!!!) もちろん冗談でも手なんか出せるわけもなく、本当に「ただの添い寝」をし 子供のように安心して眠る彼女を前にひたすら悶々とした時間を過ごした色男だった 18 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/04/23(水) 08 49 19 ID c83otLYg0 バニータソなら間違いなく手をだすくせにゼシカだと絶対手を出せないんだろコノヤロw 本当に好きな女には簡単に手を出せない男の性分というヤツですね、わかります 20 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/04/23(水) 11 41 13 ID JWJv0F7aO 17 身悶えたwww きっとゼシカの穏やかな寝顔を見ながら そのあまりの無防備さに(男として意識されていないのか)と悲しくなったり、 (でも出会った当初を思えば大した進歩だ)と自分を慰め、 何度と手を出しそうになる度に思い止まり 自分の理性の強さに感心するを繰り返すに違いない。 次の日のククールは寝不足でふらついているんだろうなw 21 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/04/23(水) 19 55 48 ID cLePMhSCO ゼシカ…なんという生殺しw ゼシカが身じろいだり寝言が漏れる度に心搏数が上がるクク… 22 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/04/23(水) 20 33 11 ID yCzouiUZ0 ゼシカを抱き枕にして寝たら面白いのにねぇ。 27 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/04/23(水) 23 12 56 ID iy8agNeG0 17 百戦錬磨(恐らく)なククがゼシカ相手には 途端にどうすればいいか分からなくなるシチュはいいなw 自分から口説いておいていざゼシカに誘いに乗られと 喜ぶよりも焦りまくるという… 22 それは…w ゼシカをきつく抱きしめて熟睡するククールと、 「信じられられない…っ!この男、人をなんだと思っているの? もう…、離しなさいよ!私はあんたの抱き枕じゃないんだから~~~」と 必死の抵抗を試みるゼシカとか… ククゼシよりもゼシクク風味 28 19[sage]2008/04/23(水) 23 40 26 ID FnmF7aCxO 真面目でお堅い性格のゼシカが、どうして胸を強調する服を好んで着てたり胸が大きい事を自慢してたりするんだろう、と不思議に思って考えた事があるんだけど、 ゼシカは純粋に「女性のふくよかな身体は美しい」と考えてるんじゃなかろうか、という考えに至った。 天才彫刻家の血を引いてるわけだし、女性の身体を「いやらしい」と考えずに「美しいもの」と考えてるんじゃないかな~と。 だけどククールから見ると、その無自覚さが危なっかしいというか、無自覚だからこそほのかな色気を感じるというか。 ゼシカが、異性から見たら自分は性的な対象であるって事に、頭ではなく感性で気付いた時が「お色気に気付いた」時なんじゃないかと、ふと思った。 29 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/04/24(木) 00 11 43 ID tPmZMb6B0 ナイス考察! 30 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/04/24(木) 02 44 20 ID 7bBKWCCT0 27 ククールの寝姿と言えば抱き枕でしょう。 それしか頭に浮かばないw 31 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/04/24(木) 12 44 02 ID TFNOIdPi0 30 ギャリング邸でのアレですね、わかります 32 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/04/24(木) 19 48 26 ID XE4Be3lEO ゼシカはククール専属抱き枕 33 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/04/24(木) 20 27 14 ID m1JX2DAf0 27 それ最高…死ぬ……… 32 それククゼシラーの心の標語決定な たれ幕に書いてビルの上から掲げてもいいですか? 34 名前が無い@ただの名無しのようだ[sage]2008/04/24(木) 21 35 33 ID GrrxIdHmO ゼシカを抱き枕に熟睡するクク…かと思いきや実は一睡もできず、 ゼシカの手前寝たふりをしているものの必死に欲望と理性との闘いを繰り広げている。 天国のような幸せと地獄のような苦しみを同時に味わうククール。
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雑談スレ374-401の流れから +++2人はベッドに腰掛け見つめあっていた。ゼシカがかすかに頬を紅潮させ、瞳を閉じる。ククールは一瞬目を細めたが、すぐに彼女の肩に手を置き、薄く開いた可憐な口唇に優しく口づけた。あの忌まわしい出来事から、数か月が経っていた。それ以来いつからか2人の間に、約束事のように繰り返されている一つの行為があった。抱きしめ合い、睦言を交わし、素肌に触れ合って、見つめあって、キスする。お互いを慈しむための行い。性行為などとは到底呼べないままごとのような愛情確認。ふとしたことで、ゼシカが異性に触れられるとひどく怯えることに気づいたククールが始めたことだった。それはゼシカ自身は全く気づいていなかった、心の奥底に残された傷だった。「オレがすることが嫌だと思ったらすぐにそう言って。嫌じゃないと思ったら、目を閉じて、なんにも考えないで、身体の力を抜いて、受け入れて」ククールは真摯な瞳でそう言って、ゼシカの身体をまるで壊れやすい宝物のように大切に扱った。少しでもゼシカが拒絶の反応を見せれば、ククールはすぐに謝って手を離した。ゼシカは、ククールに抱きしめられることに嫌悪など感じなかった。どうしようもない恥ずかしさはあったけれど、泣き出したくなるほどの安心感と苦しいくらいに高鳴る胸の鼓動は、大好きな兄に抱きしめられた時の幸福感とはまるで違うときめきと疼きを与えてくれた。最初は、両肩を掴まれただけで身体が跳ねた。それでも、ククールが丹念に肌を撫で、羽根のように優しく触れ続けてくれたおかげで、徐々に緊張がほぐれ、彼に身を任せることができるようになった。はじめてキスした時も、思い返せばゼシカの方から望んだような空気がある。熱っぽく潤んだ瞳で見つめてくるゼシカに、あと数センチで口唇が触れ合ってしまうような距離のまま、ククールはひどく戸惑った様子で眉をひそめていた。しかしゼシカが泣きそうな顔でククール、と名前を呼ぶと、何かを決心したように(あるいは何かを諦めたように)、そっと…キスをした。触れ合い、口づける。そこで終わりではないことは、さすがにゼシカにもわかっていた。これが「男女」の営みであるのなら、この先に続くべき行為も想像がつく。さらに言えば、すでに一つの確信があった。ククールはきっとそれを望んでいるのだろうと。そして―――自分も。ククールに「これ以上」をされても、もうあの恐怖は蘇らないとわかっていた。 「……………ククール…?」ふいに彼の手が身体のどこからも離されて、ゼシカはうっとりと閉じていた目を開いた。ククールは腰かけたまま組んだ指を額にあててじっとうつむいていた。表情が見えない。ゼシカは不安になる。「…ど、うしたの?何かした?わたし…」「もうやめよう」いきなりキッパリと言い切られ、意味がわからずゼシカは目を丸くする。「もうゼシカは大丈夫だ。あとは自分自身で心を回復していかなくちゃならない。 オレにできるのはここまでだよ」絶句するゼシカをよそに、ククールは流れるように言葉を口にする。しばらくして、ゼシカの口からようやく零れた言葉は震えていた。「ここ、まで?…ここまでって、なに?」「本当は、オレがするべきじゃなかった。ごめん。でもお前のトラウマを克服させるのはあの時点でオレしかいなかったから、やってよかったと思ってる。これでゼシカが怯えることはもうない。オレの役目は終わった」それはあらかじめ用意してあったセリフのようによどみなく、躊躇もない。ゼシカは声だけでなく、全身が震えてくるのを感じた。ククールの言いたいことが、おぼろげながらわかってくる。決してわかりたくない内容が。“役目”?口唇が開くが、言葉が出てこない。明らかに狼狽しているゼシカに、ククールは低い声を落とした。「――――ゼシカとセックスはできない」その途端、衝撃で空気がひび割れた気がした。ゼシカのか細い声が響く。「……役目、だから?」「………………」「ククール、私に触れてくれるの、嫌だった?」「…そういう話じゃない」「私、わたしは、ククールに触れてもらえるの、すごく好き、だったよ。しあわせだった」おそるおそるゼシカは本音を吐露する。もう羞恥などとなりふりかまっていられない。はっきりとククールが離れていく感覚が、怖い。「…わたし、わたしは、ククールと、…。………した、い」そう告白した瞬間ククールが乱暴に立ち上がり、ゼシカは思わず身を縮こませた。嫌われた、軽蔑された、どうしよう、と、ただ混乱する。ククールはゆっくりと背を向ける。「――――吊り橋理論って知ってる?」 へ?とゼシカは気の抜けた声を洩らす。「深い谷の揺れる吊り橋の上で男と女が出会うと、恋に落ちる可能性が高いんだと。 心臓が高鳴ってる状態での出会いは、相手を好きなんだと脳が誤認するらしい」温度のない置物のようにつらつらと並べられていく言葉。だからなに?とゼシカは言いかけた。しかし、声にはならなかった。彼が何を言いたいのか、嫌でもわかる。一気に頭に血が昇った。「わ…っ、私のこともそうだって…言いたいの…!?私の気持ち…っ!!」「お前が悪いんじゃねぇよ、全部偶然だ。お前はもうオレなんかにひっかかってちゃいけない。 キスもセックスも、ほんとに惚れた男とす…」どん、とククールの肩を押したゼシカが、全身の力をこめてその頬を張った。「バカにしないでよ!!!!」さっきまでなんとか耐えていた涙が叫びと共に零れ落ちる。それ以上言葉が出てこなかった。それぐらい腹が立っていた。そして、同時に悲しかった。“勘違い”だと言われた自分の想い。“思い込み”だと切り捨てられた自分の恋。ドキドキしていたから、ククールを好きになった?バカにするんじゃないわよ、そこまで子供じゃないしそこまで単純じゃないわ!ボロボロ流れる涙を止めることもできず、ゼシカはただ無言でククールを睨みつけていた。ククールも顔を逸らしたまま動かない。これ以上言うことはないとでも言うように黙っている。――――何か言ってよゼシカは心の中でククールに訴えた。心を突き刺す沈黙に、もう、気勢を張れない。彼を殴ったまま握りしめていたこぶしから、ふっと力が抜ける。本当は、もう気づいていた。“吊り橋理論”。そう、そうなんだね。それに引っかかってしまったのは、私じゃない。…あの時、身も心もボロボロになった女に出くわして、決して一人では立ち上がれなかった女を前にして、ククールは“勘違い”した。「自分はこの女のそばにいるべきなんだ」と、“思いこんだ”。あなたの性格で、あんなに情けなくて惨めで可哀想な女を前にして、放っておくなんてこと、できるわけなかった。だから、自分の気持ちを同情から恋心にすり替えた。そうでもしなければ、好きでもない女の身体に、愛情を持って触れて、キスするなんて、できなかったから。そして私が傷を克服できそうになって、ようやくわかったのね。自分の本当の気持ちに。「……ごめんね」永遠に感じられた沈黙を破って、ゼシカがポツリと言った。ククールがゆっくりと顔を上げる。その力なくうつむくゼシカの様子に、さきほどの迸るような怒りはもう微塵も感じられない。「ずっと、嫌なことさせてたんだね。…ごめんね」降ってわいた偶然で、私は自分たちが好き合っているんだと誤解した。告白ひとつまともに交わしてはいなかったのに、まるで恋人同士になった気になって、浮かれていた。……それが「本当に」嬉しかったのは、自分だけだったのだと。ククールは私と「これ以上」をするなんて、まっぴらごめんなのだ。その事実を冷静に受け止める。私はただの仲間。なら未練なんか残してはいけない。少なくとも、そのように振舞わなくてはいけない。じゃないと彼はまた、私に「同情」してしまう。 フラリと扉に向かって歩き出したゼシカに、ククールが何か言いかけてグッと口唇を結んだ。ククールの心の中の葛藤がどれほどのものであるかなど、当然ゼシカが気づくわけもない。何もかもを抑え込み封印しなければと考えたのは、ゼシカだけではなかった。「もうやめよう」と、その一言を口にすることがどれだけ彼を苦悩させたか、ゼシカは知らない。そしてククールにもそれを知らせるつもりはなかった。ククールの決意は強固だった。だから、ゼシカが部屋から出ていくのをじっと待つ。こぶしを握りしめて。「――-――あのね」ふいに、ドアノブに手をかけたまま、ゼシカの囁くような声が床にしんと落ちた。「…あの時、すごく怖くて、とにかく怖くて、声も出なくて、私、もう終わりだと思ったの」ククールが眉をひそめる。強姦未遂に遭った彼女の、まさにその時の心情を聞くのはこれが初めてだった。「その時ね。私の頭の中に無意識に浮かんだのは、…………ククールのことだけだったんだよ」ハッ…とククールが目を見開いたことに、背中を向けるゼシカは気づかない。ゼシカはポツリポツリと、でも意志をもってククールに伝える。「他の誰も思い浮かばなかった。兄さんのことすら、考えもしなかった。ただ、ククールのことしか考えられなかった。ずっとずっとククールの名前を呼んで、ククール助けて、って最後まで叫んでた」ノブにかけられた指が震えている。そして、声も。それを隠そうと必死になっているのが伝わる。「………だから…。―――“吊り橋理論”は、私には、当てはまらないの。だってククールに抱きしめてもらう前から、私はククールが、…好き、だったんだもの」それだけは伝えたかったの、という言葉と同時にゼシカは扉を開く。ククールの足がわなないた。引き留めたいと、全身がわなないていた。でも見えない糸に縛られて、時を止められたかのようになぜか指先ひとつ動かせない。ゼシカが肩越しにわずかに振り返る。口唇だけで、ありがとう、と告げて。その瞳から光る雫が流れ落ちたのを認めた瞬間に、ククールの呪縛が解けた。廊下に踏み出し扉を閉めようとした―――ゼシカの身体を、ククールは攫うようにして腕の中に閉じ込める。それはオレのセリフだ、と、心の中で叫ぶ。そしてククールはゼシカがそれまで聞いたこともないような苦しげな声を、ゼシカの耳元に囁く。「オレもゼシカを抱きしめる前から、………お前のことが、好きだった…!!」最初からそういえばよかったのに。バカみたいね、私たち。ずいぶん時間が経ってから、ゼシカはそう言って泣きながら、笑った。
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世界の中心、三大聖地の中でも巡礼の終着地と言われる聖地ゴルド。 エイトたちがこの聖なる町に辿り着いたのは、日が暮れてからだった。 調べたい事は沢山会ったが、旅の疲れもあり今夜は休む事になった。 さすがゴルドというべきか、参拝者が多い。世界中の信心深い巡礼者が、この聖地のシンボルである岩山に刻まれた巨大な女神像をひと目見ようと集まってくるのだ。 ゴルドの宿は既に満床で、床に敷物と毛布で寝ることになった。 夜も更け人々が寝静まった頃、ゼシカは目を覚ました。 浅い眠りの中で見た夢は、酷く恐ろしいものだった気がする。額が汗ばんでいる。気分が悪い。 ゼシカには解っていた。あの、女神像のせいだ。 荘厳な女神は恐ろしく大きく、岩肌の質感のせいか、眼下を見下ろすその目は厳しく、冷徹であるとさえ思える。 ゼシカは先刻のククールの申し出を断ったのを思い出した。 『そんなに怖いなら、今夜は添い寝してやろうか?寝つくまで子守歌を歌ってやるよ。』 衝立てで個別に間仕切られてはいるが、この部屋にはエイトたちばかりでなく他の一般客数人も床で寝かされていて、なかなかの大所帯になっている。 ゼシカは足を忍ばせククールのそばに近付いた。 「ン…?何だ?」 さすがに騎士だけあって、すぐにゼシカの気配を感じてククールは目を覚ました。 「ゼシカか?どした?」 「ゴメン。やっぱりどうしても女神像が怖くって…。」 ゼシカは気まずさで俯く。自分は何をやってるんだろう。顔が熱くなる。 「なんだ夜這いじゃねーのか…まぁいいか。添い寝だろ?」 ホラ、とスペースを開けてくれるククールの隣に、ゼシカは何が夜這いよ、とブツブツ言いながら横になった。 「何かしたら承知しないからね。」 ---それが人にものを頼む態度かよ。ククールは警戒もあらわに念を押すゼシカに苦笑した。 「しねぇよ。ゼシカとの初めての記念すべき夜は、パリッパリの白いシーツつきの、フッカフカのバカでかいベッドがある、月明かりが良く入る窓があるコギレイな部屋でって決めてんの。オレは。」 ククールは思い付きにしては具体的な事を真顔で言った。 「何よソレ…。」 ゼシカはアホらしさに脱力した。呆れて怒る気もしない。 「こんな状況じゃ何する気も起きねーよ。」 ククールは不快極まりないといった感じで衝立てを指差した。さっきから聞こえる一際大きいいびきはヤンガスのものだろうか。確かに聖地にあるまじきむさ苦しさだ。 「女神さまも、見てるしな…。ま、ゼシカは勘がいいよ。あれ、ただの石像じゃない。」 「ちょっと!恐いこと言わないでよ!ただの像じゃなかったら、なんだっていうのよ!」 「知らねぇよ。そんな事。あんまりイイ感じはしないって言ってんの。一応僧侶なんだぜ?オレは。」 何が僧侶よ---と言いたかったが、ゼシカは黙った。ククールが良い・悪いに関わらず、そこにいる何らかの気配を感じ取るような事はこれまでにもあって、それが外れない事も承知していたからだ。 それにしてもなんだろう、この宿屋は。宿屋の主人が『満床だから床で寝てくれ』と200ゴールドも取った上で当たり前のように言った事をゼシカは思い出した。 常に人が集まるこのゴルドでは当たり前の事なのかも知れないと一度は納得したのだが、女性である自分にくらいもう少し気を使ってもいいんじゃないだろうかと思う。 敷物があるとはいえ、伝わってくる床の固さにゼシカは顔をしかめた。 「ゼシカ、ちょっと一回起きな。」 不意にククールが言った。 ゼシカは言われるがままに半身を起こすと、ククールがその場所に腕を伸ばした。 「どうぞ。」 意図するところを理解できず、訝しげに見返す。 「はぁ?」 「枕ないから。どうぞ。」 腕枕。紳士的なのか、下心からなのか、ククールの平然とした表情からは全く読めない。 勘ぐる方が品がないような気がしたので、ゼシカは大人しくそこに頭を乗せ、ククールを見た。 ククールはというと、下心があったわけではなかったが、ゼシカからひと言ふた言はあると思っていたので、あまりの素直さに拍子抜けした。 「…………。」 「…………。」 黙って見つめあう形になってしまい、変な間が流れる。 ククールがなんとか話を切り出す。 「え~と、それでオレは子守歌を披露するべきなのか?」 ゼシカは吹き出した。ククールは照れているらしい。 「それはいいわよ。ククール音痴そうだもん。」 「色男が音痴だというセオリーは、オレの場合通用しないんだけどな。」 そう言いながら、ククールも笑った。 眠くなるまで二人は色々な話をした。子供の頃の事。それぞれが使える魔法の事。エイトやヤンガス、トロデ王、ミ―ティア姫の事。 ゼシカはいつの間にか、女神像の事を忘れた。 それからククールは本当に子守歌を歌った。教会の聖歌。 それは意外にも上手くて、小声ながらも通りのよいバリトンの声はゼシカを安心させた。 ---ああ、コイツ本当にとんでもないタラシだわ。気を付け無くっちゃ…。 そんな事を考えながら、ゼシカはゆっくりと眠りに落ちた。 ククールはゼシカが寝付いたのを確かめると、肩の上まで毛布を引き上げてやった。 腕が痺れたので肩のほうにゼシカの頭を乗せ直し、これ位許されるダロ、と前髪にキスして、自分も眠るために目を閉じた。 翌朝二人は、早起きしたエイトたちにくっついて眠っているところを見つかってしまい、散々冷やかされた。 ククールはあらぬ事まで認め、ゼシカは必死に釈明した事は言うまでもない。
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0・サーベルト 私の名は、サーベルト=アルバート。 フルネームだとゴロが悪いというのは、自覚しているので触れないでほしい。 ドルマゲスに殺され、一時はリーザス像に預かっていただいていた私の魂の一部は、今は村の墓地の自分の墓の周りに留まっている。 この村には私とゼシカ以外に戦える者はなく、私が死に、ゼシカが敵討ちの旅に飛び出した後は、子供のポルクとマルクが村を見回るだけの、心許ない守りだった。 心配で、とても成仏など出来なかった。 そして、それよりも更に心配だったのは妹のゼシカのことだった。 母とはケンカばかり、同世代の友達もいなく、本当に心を許すのは私に対してだけ。 あのままでは、孤独な一生を送ることになってしまうかもしれないと思うと、どうして私の後ばかり付いてくるゼシカを、それではいけないと突き放しておかなかったのかと悔やまれた。 だが、私が余計な心配をするまでもなく、ゼシカは旅の間に友を得て成長し、母と言い争うことも少なくなり、メイドたちとも仲良くできるようになった。 そして何より喜ばしいことは、ゼシカが愛する人と無事に心を通わせ、つい先日、この村の教会で結婚式を挙げたことだ。 もう私がこの村に魂を留める必要は無いのだが。 まだ少し。ほんの少しだけ、ここで妹の幸せを見届けたいと思うのは、わがままなのだろうか。 1・ゼシカ ゼシカは、必ず毎朝、切り立ての花を供えに来てくれる。 「おはよう、兄さん。今日は今年一番に咲いたバラを切ってきたのよ。綺麗でしょう?」 愛する人と結ばれて幸福に輝くゼシカの方こそ、咲き誇るバラのように生命力に満ちた美しさに溢れていた。 だが私としては、墓の前でその人間の妹とイチャイチャベタベタしたあげく、痴話喧嘩からプロポーズに突入するような男を、どうしてゼシカが選んだのかが正直不思議だった。 ゼシカにはもっと、誠実なタイプの方がふさわしいと思うのだが、残念ながら死人には口出しできない。 「おはようございます、ゼシカお嬢様。いつもお早いですね」 開店準備に行く途中の防具屋が、ゼシカに気づいてこちらにやってきた。 「おっと、こりゃあ失礼しました。お嬢様じゃなくて、若奥様でしたね」 防具屋の言葉にゼシカは頬を赤くする。 「やだもう、からかわないでよ!」 そしてそのまま防具屋の背を力一杯叩いた。 そう、暗黒神と素手で殴り合えるゼシカが、力一杯。 次の瞬間には防具屋は、数十メートル先の木にめり込んでいた。 「きゃああああああああぁぁぁ!!!!」 ゼシカが悲鳴を上げると同時に、ククール君がタイミング良く駆けつけてきた。 「どうした? ゼシカ!?」 「ク、ククール! 早く! 早く、ホイミとベホイミとベホマとザオラルとザオリクかけてー!!」 動揺して支離滅裂な事を言うゼシカに対して、ククール君は実に冷静に、変わり果てた姿になった防具屋を蘇生する。 「ったく、イヤな予感がして迎えに来てみれば、やっぱりやらかしてたか。だから、自分のバカ力を自覚しろっていつも言ってるのに」 「だってぇ~」 ……やっぱり、ゼシカにはククール君じゃなきゃダメかもしれない。 いや、『ダメ』というより、『無理』と言った方が正確か? 2・アローザ 正午を少し回った頃、今度は母が花を持って現れた。 「この所、ゼシカの結婚や何やらで忙しかったから、ご無沙汰してしまったわね。だけどようやく一段落ついたわ。私もやっと肩の荷が下りて、ホッとしてるところよ」 ゼシカが旅に出ている間は、まるで元気を無くしてしまっていた母も、ゼシカが村に戻ってきてからは少しずつ気力を取り戻し、今ではすっかり元通りになったように見える。 この若さで死んでしまうなんて、最悪の親不孝をしてしまった身としても、ようやく肩の荷が下りた気分だ。 なのに母さんは、大きな溜め息を吐いている。 「ねえ、サーベルト? 私、昔からゼシカが貴方ベッタリなのをずっと心配してたのよ。このままじゃあこの子、誰とも結婚出来ないんじゃないかって。 だから、貴方とは全然タイプの違うククールさんを紹介された時、少し安心したの。ようやくこの子も兄離れ出来たのねって。でもね……」 そしてまた母さんは、大きく一つ溜め息を吐いた。 「ククールさんって、ずっと着たきり雀であんまりだったから、新しい服を作ってもらおうと仕立て屋を呼んで採寸したのよ。そしたらね」 更に大きな溜め息が一つ。 「全く同じだったのよ、あなたとサイズが……。背丈も、肩幅も腕周りも股下も。そう意識して見てみると、歩き方なんかもそっくりなのよ。 ゼシカって、ずっとサーベルトの後を付いて歩いてたじゃない? それでククールさんの後ろ姿に貴方の面影を見てるとしたら、まだ兄離れできてないんじゃないかと心配で」 ……それは母さんの考えすぎだと思うけど……。 もし。もしそうだとしたら……ゼシカには自覚は無い分、問題じゃないか? 3・ククール 夕方、珍しくククール君が、その辺で適当に摘んだらしい花を墓前に供えに来てくれた。 だが、何も言葉は無い。空を仰いだり、振り返って村の様子を眺めたりしている。 だがやがて、ゆっくりと静かに話しだした。 「……いいトコだよな、この村は。ここにいると、空がすごく近く感じる。住んでる人たちも穏やかで、何て言うか、気持ちが伸びやかになってく気がするんだ」 こちらに顔を向けたククール君の目は、とても誠実なものだった。 「これからはオレが守るよ。ゼシカも、この村も……だから安心して……」 その続きを聞くことは出来なかった。 「あら? ククール?」 ゼシカがやってきたからだ。 「珍しいわね、ククールが兄さんのお墓参りだなんて」 「いや、たまには、男同士の話でもしようと思ってさ」 ……母さん、ゼシカがククール君に私の面影を追ってるなんてことは、絶対に無いよ。 いつだってゼシカはククール君の背中なんて見ていない。こうしてまっすぐに目を見て話している。 だからこそ、彼の真摯な瞳に魅かれたんだろう。 死んでしまったことが、今更ながらに残念だ。 生きて彼と出会い、『ゼシカと結婚したかったら、私に勝ってからにしてもらおう』なんて頑固親父のマネ事もしてみたかった。 ……まあ、ほぼ間違いなく、私が瞬殺されるだろうけど。 でもその後は、友人として、兄弟として、多くの時間を共有しながら、とても楽しく暮らせただろうに。 ゼシカもこの村も、私が見守る必要は無い。ククール君に任せて大丈夫だろう。 いつまでも、こうやって魂を現世に留めておくのも、そろそろ潮時だろうか? 4・バカップル改めバカ夫婦 「ってことは何? ゼシカはオレを迎えに来たわけじゃなくて、本日二度目の墓参りだったのか?」 「うん。だって今朝はあんなことがあったから、ゆっくり兄さんとお話しできなかったんだもの」 ん? 「ほ~。うちの可愛い若奥様は、新婚の夫よりも、兄貴の方が大事なのかよ」 「誰も、そんなこと言ってないでしょう!?」 ちょっと待て。なぜいきなり、痴話喧嘩が始まる雰囲気なんだ? 「だってそうだろ。毎朝毎朝、おはようのキスもそこそこに『兄さんにお花~』って。ブラコンもいい加減にしろ!」 ……狭い……。 何て心の狭い男だ。死んでしまった兄に対して嫉妬なんてしなくても良いだろうに。 そして、ふと思い出す。 ククール君は元は僧侶で霊感が強いと、ゼシカが言っていたことを。 もしかして彼は、私の魂がこの世界に留まっていることに気づいているのか? そしてさっきの『だから安心して……』の続きは『サッサと成仏しろ』だったりするのか? 「もう、バカね。ククールより兄さんが大事だなんて、そんなわけないじゃない」 「ゴメン。でもさ、ゼシカにはオレだけ見ててほしいから、ついヤいちまったんだ」 「ふふ。いつも私ばっかりヤいてるから、たまにはいいかもね」 二人はまた、わざわざ人の墓の前でケンカした後でイチャつき始めた。 そしてククールは私の方を見て、確かに一瞬、舌を出した。 間違いない……こいつ、わさとやってるんだ。 母さん、冗談じゃないよ! こんな男にオレが似ていてたまるもんか。 ククールに、ゼシカを任せて安心なんて大きな間違いだ。 オレはまだまだ、成仏なんてしないぞ! 終
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*「ねぇ、ククール…ほんとに、なんだか…変なの…」「わかってるわかってる。今オレが楽にしてやるからな」「え、ちょ…っ!」とても色男とは思えないほど目尻を限界まで下げきって、震えるゼシカにククールは突然の口付けを与えた。怒りたいのになぜかまったく体に力が入らず、ゼシカは抵抗する指をぐずぐずと萎えさせていく。壁際に押しつけられ、露出過多の素肌を優しく撫でまわされると背筋をゾクリと震わせた。「ん、んふぅ………っアッ、や、やだ…」コリ、と、なにげない動作でククールの指先が極端に短いビスチェの上から乳首を摘まむと、ゼシカはビクリと反応してしまう。何も施されずとも、すでにそこは固く張っていたからだ。「やだ、ぁ…」「おかしいな…?なんでもうこんなに硬くなってるんだ、ゼシカ?」「わ、わかんない…っ!ねぇ、なんとかしてくれる、って………ッん!!」「わかんない?それは大変だ。じゃあ、もしかして…」決してビスチェは脱がさないまま、聞こえないふりをしたククールの片手は下半身へも伸びる。何のために存在するのかわからないスケスケの布地をかいくぐって下着部分に到達する。ショーツ部分はそれはそれで、爪先でピンッと簡単に切れてしまいそうな細い紐だけが申し訳程度に局部を隠す小さな布を繋ぎとめている様は、むやみに男の劣情を煽るためとしか思えない。そこにそっと触れると、それだけでゼシカは敏感に体を跳ねさせた。「…やっぱり、ココもエッチな気分になってる?」ククールのほくそ笑みに気づく余裕もなく、ゼシカは火照った顔を切なげに歪ませた。「…ぅ…っ…やだ、もう…っ。…た、多分、この装備の…せい」「このエロいビスチェのせい?…確かに異常にヤラシイよな。胸も尻も丸出し。こんなの着て一人で興奮しちゃったんだ、ゼシカは?」そう言われ、さらにゼシカは頬を赤らめる。確かに妙にいやらしいかな、とは思った。けど、ククールにそう言われると、まるで自分が望んで恥ずかしい恰好をしているような気になって…「だ、だって…装備だから…!着てみなきゃって…!」「だったらすぐ脱ぎゃよかったのに、なんでわざわざオレに見せに来たんだよ…?」指がショーツの上から割れ目に食い込み、きっともう震えながら主張しているであろう小さな芽をグリと刺激すると、ゼシカは耐えきれず高い声をあげてしまう。そしてもちろん下着はすでに、小さくない染みで濡れていた。「だってぇ…ッ、っあ、あ…」「だって、なに?」「…く、ククに…見てほしかった、の…」いたずらな指先がピタリと止まった。おや、という男の顔がゼシカをのぞきこむ。「なんで?」「…ほめて、くれるかな、って…いつも…新しい装備見て、…喜んでくれる、から…」快感よりも乙女としての恥じらいに頬を染めるゼシカに、ククールはキュンキュンしてしまうわけで。そしてこんな棚ボタ展開を、見逃すわけもなく。甘い声のささやきを耳元に吹き込み、さらにゼシカを自分の虜にしてしまおうと。「……最高だよ。よく似合ってる。さすが、オレのゼシカ」「ほ、ほんと…?」「最高に…魅力的だ」「魅力的…?」しかしその賛美に少しの不満をのぞかせて見上げてきた視線に、ククールは苦笑して訂正した。「あぁ…。―――かわいいよ、ゼシカ」 同時に再び、薄手のビスチェの上から胸を大きくもみしだく。「かわいいゼシカ…ほんとにかわいい」 「んっ…や、ま、待って…ックク…!」「かわいい…ゼシカ…」首筋に歯を立てられて、ゼシカは身をすくめる。気持ちの高揚が体にも直結して、彼の手が触れる全ての肌が熱を持って火照る。もう、体中が…体の奥の奥から、熱い。「だ、ダメ…!お願い、これ以上はホントに…おかしくなっちゃうから…ッ」「なっていいよ」「ダメ、だから…ッねぇ、おねが、い、これ…脱がせて…ッ!」「ダーメ」「なんでよぉ…ッ!!バカ…ッア!」ゼシカにしてみれば、この状態はまるで拷問。薄皮一枚のように肌に張り付くこの装備が、頼みもしないのに勝手に体温を上げ、欲に飢えさせ、ゼシカの思考を麻痺させる。少しずつ恥ずかしい期待に浸食されていく脳内にあらがう意識は残っているのだから、それがまたツライ。羞恥を捨てて快楽に没頭することもできない。ククールの愛撫と、さらにもう一つの何かが、二重になってゼシカを追い詰める。要するに布を皮膚に押しつけられるだけでも、何だかムズムズしてたまらないのだ。体の奥の方から、何かを強引にかき回される気がして…頭がクラクラする…「お…おねが…やだ、んぅぅ…っクク―ル…!」確かに今夜のゼシカの感じ方は普通じゃなかった。服の上から撫でるだけで、過度に反応して鳥肌を立てる。火照った体をビクビクと跳ねさせるその様子は、どう見ても据え膳としか思えない。片方の太ももを持ち上げ撫でさすりそのスベスベの感触を楽しみながら、ククールはニヤリと笑った。「…わかった。じゃあ脱がせる前に、もう一度オレによく見せてほしい」「え…っ」「後ろ向いて」「え!?…や、やだ」「他の男の前でなんか死んでも着させない。でも、オレの前でだけは…いいだろ?」「いやだ…、恥ずかしい…っ」「ゼシカのかわいい姿が見たいんだ」ククールの言葉は、ゼシカにとって文字通り殺し文句だ。確実に急所を狙って、絶対に逃げられないところにかいしんの一撃を当ててくる。セリフだけじゃなく、艶っぽい声も、すがるように真剣な瞳も…ゼシカは口唇を噛んでうつむいて、真っ赤な顔で逡巡する。やがてノロノロと、壁にそっと手を当ててククールに背中を向けた。 ゼシカの肉体をこれでもかと魅せつけるばかりの、圧倒的エロスに満ちた姿が無防備に晒けだされる。思わずククールの喉が鳴ったが、必死なゼシカは気付かない。ククールだけが知る白くすべらかで完璧な裸体は、細い布と細いヒモ一本でキュッと縛られ、まるで彼女を拘束しているかのようだ。黒革のブーツがまた妙にいかがわしく見えるのは気のせいか。やわらかいお尻に食い込むT字型のラインが、否も応もなく男の雄を刺激する。似合っていなければ、まだよかった。しかしこの危険な装備は、これ以上ないほどゼシカに似合ってしまっているからタチが悪い。―――この強烈なフェロモンに抗える男などいるだろうか?もう止まれるわけがない。もちろんはじめから止まるつもりなどなかったけれど。気配を消して忍び寄り、何が起こるのかと怯える彼女の肩にいきなり噛みついた。「ひゃっ…!」「ゼシカ…お前、エロイ」「あああっっ…!!」うしろから手を回し胸をいじりながら、お尻を鷲づかみにして割れ目に指を滑り込ませ、キワドい部分を行き来しくすぐる。ゼシカは体をくの字に折り曲げて抵抗するが、それはお尻をさらにククールに向けて突き出すことにしかならない。立ったまま丁寧な愛撫を施され、それでも尚、ククールはその装備を完全に脱がしはしなかった。ビスチェから硬く色づいた乳首はとうにさらけ出され、ショーツの裾から何本もの指を忍び込ませて中をグチャグチャにかき回したくせに、中途半端に着衣させた布は未だゼシカの体にまとわりついたまま。当然装備がもたらす効能も、肌に触れている限り変わらずゼシカをさいなむ。体中がむず痒いような、皮膚のすべてが鋭敏になって、ほんの少しの刺激が過剰な快感になる。ジリジリと追い詰められる重い快感がじっとりと与えられて、どんどん体の奥に溜まっていく。サラリと垂れ下った透けた布が腰のあたりをくすぐるその感触にすら、背筋が震えて。立っているのもやっと。快楽も、火照りも、もう限界。発散させなければ、おかしくなる…!「ククール…ッ!!!おねがい、脱がせて…ッ」「…へぇ?ゼシカやらしいな。自分から脱がせてなんて」「…ッだ、だって」「裸にしてほしいんだ…?」正面を向かせるとゼシカは羞恥に視線をそらしたが、否定はしない。できない。どんなにいじめられても、この装備を脱がせてくれるのなら我慢するしかないと、すでに知っている表情。ククールはゆるい愛撫を続けながらゾッとするような怜悧な笑みで囁く。「…言ってみろよ。ハダカにして、って」ほら。やっぱり。自分をいじめる時、彼はいつもこんな風に笑う。全身がさらに熱くなる。こんな時、自分が罠から抜け出せたためしはない。いつだって彼の思うままにいじめられ、羞恥と屈辱に犯される…ゼシカは震えながらゆっくりと口唇を開いた。顔を真っ赤に染めて、彼の望む言葉を、望むままに。それを聞き届け、ククールは満足げに口元を歪める。前置きは終わった、とばかり。 ベッドに横たえられ、ゼシカは戸惑いがちにククールを見上げた。事態をあきらめかけていたゼシカは、頭の片隅であのまま後ろから挿れられるのかと思っていた。それを体が期待してもいた…だから存外に優しい彼の所作に、少しだけ驚く。「………ク、ク……」「かわいいよ…ゼシカ」チュッと音を立ててキスすると、ククールは体を起こして上からゼシカをじっくりと見下ろした。彼の視線は、それだけで凶器だ。それは戦闘だけで生かされるわけじゃない。肌をゆっくりと、卑猥に、なめらかに辿ってゆく妖艶な視線は、限りなく本当に「目で犯して」いる。その視線を追って、ゼシカは咄嗟に胸を隠した。ビスチェからはみだした大きく柔らかい乳房を自らで押さえつける様は、かえって淫らで男を煽る。透明な布を押し上げて、腹を、腰をさらし、胸下からブーツまで伸びる一本の革ひもを戯れにピンと弾くと、白い体がビクンと跳ねる。それだけでも彼女には堪らない刺激なのだ。ククールは笑い、未だ脱がせないままの下着の横ヒモに指をかけ、思わせぶりに引っ張った。「…脱がせてほしい?」ゼシカは目をつむって必死に頷く。ククールはどうしようもなく濡れそぼって色を変えた布の上から、割れ目を深くえぐった。「――やぁっ!!!」「ホントよく濡らしたな、今夜は」「あっあっアッ…!!やめ、て…ッ」「もう使いもんにならないんじゃねぇ?この装備…」グチグチと。卑猥な音を嫌がらせのように響かせながら、それでも脱がそうとしない。ゼシカは焦れた。もうさっきから何度か絶頂を味合わされていて、身体はすでにたった一つのモノしか求めていない。最後の、最高の快楽を与えてくれる、浅ましい期待だけを。乳首に歯を立てられた時、ついにゼシカは我を忘れて泣きながら叫んでいた。「やだぁっ!!もう…っ…ぅ…脱がせ、て…っ!早くしてよぉ…!!!」「そんなにキモチイイかよ、エロスのビスチェは。だったら脱がさない方がお前イイんじゃねぇの?」急に口調の変わったククールとその言葉にゼシカはぎょっとした。そして抗う間もなく膝の裏に手を差し入れ、両足を大きく開かされて小さな悲鳴をあげる。ククールの指がショーツの股部分を思い切り横にずらし、履かせたままで秘部をあらわにした。赤く火照り、開き、トロリと蜜をしたたらせて、布の間からあからさまに男を誘う。その淫らな眺めに、ゼシカは驚愕し、ククールは悪い笑みを浮かべた。「…エッロ…」「やっ…!!…ッヤメ、テ…そんな」彼の意図を悟り、ゼシカは激しく動揺した。むやみやたらに性感を煽るこの装備を身に付けたままで行為に及んだら、どんなことになるのか。もうすでに快楽に狂いそうになっている自分が、どうなってしまうのか。「――――わかるだろ?裸じゃなくても、セックスはできるんだぜ」ククールがトドメとばかりにニヤリ笑ってそう言った。心臓が壊れそうに激しく打っている。ゼシカは知っている。これは期待。背徳に堕ちるあの心地よさを、自分はもうイヤというほど味わっている。「…クク…ル」ゼシカは快楽の涙を流しながら、決して拒絶ではない声音で男を呼んだ。それに応じ、微笑むククールの表情には、嗜虐の悦が確かにただよう。「―――火照ってるんだろ?……ラクにしてやるよ……」2人がようやく何度目かのセックスを終える頃には、件のビスチェはとうに脱ぎ捨てられていた。結局その後一度たりとも、ゼシカがその装備を着て人前に出ることはなかったという。 *
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朝なかなか起きてこないゼシカの様子を見に行ったククが 寝起きでちょっと乱れた降ろし髪+無防備なゼシカと対面 雰囲気がまるで違うゼシカに呼吸も忘れるくらいの勢いで固まるが、 ゼシカが時間がないからとそのまま仲間達の元へ行こうとしたので慌てて阻止 「なんで止めるのよ…急いでるんじゃないの?」 「いいから座れ」 「はぁ?」 「す わ れ。オレが結ってやるから」 「な… ………ボサボサで悪かったわねッ!!」 「いいからジッとしろ!」 「けっこうよッ どうせ私はアンタみたいに綺麗な髪じゃないわよ!!」 「うるせぇ!お前がかわいすぎるからオレが嫌なんだよッ!!大人しくいつものにしとけ!!!! 「な、何言ってんのよ…!…バカ…」 なんとなーく気まずい空気の仲間ゼシカの髪を結い始めるクク… (俺ってなんで、ゼシカ相手だとこうも決まんねえーのかな…。情けな…) 「本当、ゼシカには調子狂わされっぱなしだよ…」 ゼシカの髪を梳かしながら大げさな溜め息を吐くククール。 それに対しゼシカは鏡越しにククールを睨みながらムッとする。 「なによ、それはこっちの台詞なんだから」 「これだもんなあ。人の事色々と振り回しといてさ、全く自覚ねーんだもん」 「それもこっちの台詞よ!ククールはいつだって余裕綽々じゃない。今だって…」 「全く。どれだけ人の事を無自覚に翻弄すれば気が済むんだろうね、このお譲ちゃんは」 「嘘!全然翻弄されてなんかいないじゃない!何でいつも私ばっかり、 こんなにククールにドキドキさせられなきゃなんないのよッ!!!…あ」 唖然としたあとニヤ~リと笑うクク。真っ赤なゼシカに「へぇ?ドキドキしてるんだ?」などとからかいまくり 後ろから抱きしめたりうなじや肩にキスしたり噛み付いたり耳許に囁いたり息ふきかけたり舐めたり 恥ずかしくて振り返れず鏡越しに口だけで弱々しく抵抗するゼシカにもう萌え萌えしちゃうククール 辛抱たまらず色々と触りかけたところでドアバーン!!「2人とも朝っぱらから何やってんの行くよ!!」 今朝ジャマした責任を取れとククにつめ寄られた主人公は その晩の宿でククゼシが2人部屋になるように仕組まねばならなくなる。 そんな事は露知らないゼシカは夜、宿の部屋割りに驚愕するはめとなった。 そして翌朝焼け焦げた焼死体が宿屋から運び出されたという。 …昔むかーしのおはなしじゃ
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「おい、待てよ。待てってば!」 「うるさいわね、ほっといてよ」 「何怒ってんだよ?」 「怒ってなんかいないわよ!あの女の子と仲良くしてれば?」 バタバタとトロデーン城の廊下をゼシカとククールが怒鳴り合いならが歩っている。城の者達が振り返り二人を見ていた。 ラプソーン討伐後の城での宴の席でククールの悪い癖が出た。こともあろうにゼシカの目の前で小間使いの少女を口説き始めたのだ。その夜のことだ。 「やっぱり怒ってんじゃねーか」 「怒ってなんかない、って言ってるでしょ!連いて来ないで!」 バタンと勢い良くククールの鼻先でドアが閉まった。今夜はトロデーン城に泊まる事になっていたので各自に部屋があてがわれていた。ゼシカの部屋はミーティアが選んでくれたとても女の子らしい部屋だった。至る所に花が飾られ、バスルームまで付いていた。 「・・・おーい、ゼシカ」「・・・」 「ったく、いい加減にしないと、こっちが怒るぞ?」応答はない。完全ムシを決め込むつもりだ。 フー、と息を吐きククールはこの場を離れる事にした。頭に血ののぼったゼシカを説得するのは困難だと思われたからだ。 落ち着いた頃にまた来よう。 自室のベッドに突っ伏したままゼシカは部屋を離れていくククールの足音を聞いていた。 ふん。何よ。ちょっと諦めが早いんじゃないの? またムカムカと腹が立ってきた。でも同時にたまらなく泣きたくなった。 「ばか・・・」 呟いて涙をこらえた。 どうせククールなんて、どの女でも一緒なのよね。そう考えるとまたククールがあの小間使いと仲良くしているのではと不安になってきた。 ククールはきっと忘れているのだ。聖地ゴルドでのあの夜のことを・・・。 イライラした。我慢できない。でもここで追い掛けたりなんかしたらククールの思うツボのような気がした。 じっとしていられなくて部屋の中を行ったり来たり。まるで動物園のクマである。 ゼシカだってククールの事は気になる。だからこそ、腹も立つのだ。 「あー、もう!何で私があんなヤツの事でイライラしなきゃなんないのよぉ!」落ち着け、落ち着け、と自分に言い聞かせ深呼吸した。 無理!一度気になったら解決するまで落ち着くはずがない。部屋を飛び出した。 …………… 部屋の外にはククールが壁を背にして立っていた。 「あ・・・」 「おっ、思ったより早く出て来たな。お姫さま」 一気に顔が赤くなっていく。動揺が隠せない。 「あ・・・アンタ、どっかいったんじゃないの?」 「行ったよ。でも、戻ってきた。こんな状態のゼシカほっとけないし」 「ほ、ほっとけばいいじゃない。そうすればあの可愛い女の子と仲良くやれるのに。」 言っているうちにまた腹が立ってきた。 「どーせ、誰にでもアンタは私と同じ事言ってるのよね。君を守る騎士になるなんて言ってたけど、あのセリフも口説き文句のうちのひとつなんでしょ?私は騙されな・・・」 ククールの指がゼシカの唇を押さえた。 「ゼシカ、焼きもち焼いてるんだ?」ニヤリ。 あまりにもククールの顔が近くにあるので、また顔が赤くなってしまった。 「や・・・焼きもちなんて・・・」 やいてないもん。赤くなった顔を見られたくなくてゼシカは顔をそむけた。 こんなにも美人なのにゼシカは恋愛関係に結構縁がなかった。 そんなゼシカがとても可愛い。 ゼシカの唇にククールの唇が重なる。とても簡単なフレンチキス。 「!」 「ゴルドでの続き」 ラプソーンを倒したらキスをさせる、というゴルドでの言葉をククールは覚えていた。 忘れていると思ったのに。だから腹を立てていたのに。 「もう・・・ムカツク」 「あ?」 「ムカツクって言ったのよ!私一人でヤキモキしてアンタは涼しい顔してて、ばかみたいじゃない!」 ムカツクを連呼しながらククールの胸を叩き続ける。その両手を押さえ、もう一度キスをする。 「かわいいなぁ、ゼシカ」「ばか!何すんのよ!」 ばかばか。 埒があかないのでククールはゼシカを抱きあげると、ズンズン歩きだした。 「きゃあ!ちょと、何よ!?」 「廊下じゃムードがないからオレの部屋行って続き」しれっと言い切るククールに一瞬ア然としてしまった。 「やだ、おろしなさいよ」「ぃやだね」 ジタバタと腕の中で暴れるゼシカに構わずククールは自室へと入る。 ゼシカをベッドに押し倒し、覆いかぶさる。 ドキドキドキドキ。これは本当に自分の体なのだろうか。まるで体のあちこちに心臓があるかのように脈打っている。 ククールの真剣な顔から目が離せない。 「・・・ま、またいつもの冗談でしょ?」 「ゼシカ、オレは男だぜ?ここまで来たらもう止まんねぇよ」 「こ・・・心の準備も出来てないし!」 「怖いのか?・・・怖かったら目閉じてろ」 もうこうなったら覚悟を決めるしかないんだろうか?ククールは相変わらず真剣な顔をしているし、心臓はバクバク言ってるし、もうゼシカは頭の中がグチャグチャになっていた。 グッと目を閉じる。 「・・・・・・」 「・・・プ・・・ククク」ククールの声が聞こえる。目を開けるとククールが真っ赤な顔で笑いを堪えていた。 瞬時に理解した。騙された! 「ククール!アンタねぇ!」 起き上がりククールを殴り付ける。 「騙したわね!」 「ち、ちげーよ。だってさ・・・あははは」 まだ笑っているククールに更に腹が立つ。バシバシとパンチの応酬。 「信じらんない。ムカツク!」 「わ!ごめんごめん。だってさ、ゼシカがあんまり可愛いんだもん」 可愛いの単語に殴り付ける手が止まってしまった。 「・・・何よ、それ」 「それにさ、ゼシカが嫌がってるのに出来ねーだろ」ベッドの脇に移動して俯いてしまったゼシカを覗き込むが、プイとまた顔を背けられてしまった。 やっぱり可愛い。 「・・・こう見えてもオレ、ゼシカを大切に思ってんだぜ・・・」 え?またドキっとした。 上目遣いでチラッとククールを見るとこころなしか彼の顔が赤く見える。 ククールでも女に対して照れたりする事があるのだろうか?様子を伺っていると、それに気付いたククールにコツンと頭を小突かれた。 「・・・ったく、オレにこんな事言わせんのお前だけだよ」 まったく、と言いながら今度はククールが背を向けてしまった。ククールの耳は真っ赤になっていた。 ゼシカはそれに気付くと、何だか恥ずかしいのもおあいこのような気がしてエヘヘ、とこっそり笑った。 2-無題2
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「……どこ行く気だったんだ?ゼシカ」ククールが一歩前に出て、背後で扉が閉められる。反射的にゼシカは一歩後退した。必死で隠そうとしているものの、その顔は怯えに満ちている。「…っ、……べつ、に、……どこにも」ククールはひどく面白そうに目を細めながら、ゼシカに大股で近づいていく。そのたびにゼシカはあとずさり、じりじりと壁際に追い詰められた。ハッと気付いた時には壁に背中が当たり、ククールの腕がダン!と乱暴な音をたててゼシカの顔の両脇に突かれた。ゼシカは思わず身をすくめ目をつむる。20㎝近くの身長差のせいで、ゼシカの小さな身体はククールの影にすっぽりと覆われてしまう。室内の照明は点いていない。月影に見える男の微笑は不気味なほどに美しい。そしてその瞳の奥に潜む確かな怒りを見出す。あぁ、やっぱり彼は最初からわかっている。ゼシカは逃げようとしたことを死ぬほど後悔した。自らクモの巣に飛び込んできた蝶をみすみす逃すような真似はしない。この沸き上がる憤りに応えるだけのものは返してもらうつもりだった。震えながらもがき抗う彼女の姿は、ククールの加虐心を大いにくすぐる。一纏めに高く結わえられているまだ半乾きのポニーテールにサラリと指をからませながら髪留めを外すと、ゼシカによく似合う赤髪がフワリと肩にすべり落ちた。その一挙一動にゼシカはいちいち身を震わせる。何をされるのかと怯えているのは一目瞭然だ。そんな態度がますます男をつけあがらせるだけとも知らずに。ククールはほくそ笑んだ。そのまま耳に口づけ耳たぶを甘噛みし、性感帯をゆるやかになぞりながら言葉を注ぎ込む。もっともゼシカが羞恥を煽られる方法で…「――――ちゃんと身体中キレイにしてきたか?」“オレに抱かれるために” 言外に含まれたその嘲りに、ゼシカの全身が紅潮した。一瞬にして耐えがたい羞恥に襲われ、拒絶の言葉が口をついてほとばしる。「―――やめてよ…っっ!!!!」舐められる耳を振り切って彼の胸を押し返し、阻まれた二の腕の中から逃れ出ようとした。許せない。咄嗟にそう思った。それは言わないのが“ルール”のはずなのに!虚を突かれたククールは、扉の方へ走ろうとする身体をすぐさま力任せに捕えた。それでも尚 暴れ、なりふりかまわず抵抗するゼシカに、ククールは動揺の色を顔に張り付ける。手首を捕え大きな音を立てて乱暴に壁に貼り付けると、ギリギリまで顔を近づけて強引に視線を合わせる。―――睨みつけて、怯えさせるつもりだった。しかしゼシカの思いがけぬ反抗は、一瞬でククールから全ての余裕を奪ってしまった。唐突に沸き上がったのは怒りではなく、畏れ―――ゼシカは強引に合わされた視線を逸らそうとしたができなかった。間近で注ぎ込まれる碧眼に何かを奪われるような錯覚を覚える。掴まれた手首にさらに力がこめられ、聞こえてきたのは絞り出すような呻きに似た…「……オレから、逃げようとするな…ッ…!」その目にはすでに怒りなどなかった。ただ、狂おしい焦燥と…悔念に満ちた、今にも泣き出しそうな悲しい瞳…その言葉を、彼は「乞うて」いる。強く願い、望み、欲しているのだと気付く。どうして?ゼシカにはわからない。治療と称した、辱められるだけの行為を跳ねのけられず屈辱に甘んじて、快楽に翻弄され好き放題にされ、苦しいのは、悔しいのは、自分のはずだ。逃げるなと言うのなら彼はそれを「強要」できる立場にあるのに、なぜこんな目をして「懇願」するのだろう。ゼシカの口唇が何かを言おうとしてわなないた。しかし、言葉は出てこない。ククールは顔を下向け、ゼシカの額に自分の額を静かに合わせた。キツく閉じられた瞳。眉間には深いしわが刻まれている。苦しいのだろうか。どうして?ねぇ、どうしたの?黙っていないで。言葉にしてくれないとわからないよ。 ゼシカの胸中に、いいようのない感情が広がっていく。同情ではなくて、憐憫でもなくて―――愛しさ、この人を放っておけないという強い思い、自分だけがという責任、自負…首の角度を変え、ゼシカは掬いあげるようにククールの口唇に自分のそれを重ねた。なぜそうしたのか、自分にもわからない。そうすることが一番自然な行動だった。ククールが一瞬驚きに身を固くするのがわかる。しかしすぐにゼシカを拘束していた手は彼女の頬を両手で包みこみ、むさぼるように夢中で口づけに溺れた。ククールの腕はゼシカの細い身体を壊しそうなほどに締め付け、ゼシカも彼の背中を優しく撫でながら、果てのないキスを続ける。彼の腕の強さにゼシカの胸は締め付けられた。まるで嵐に怯える子供のようにしがみついてくる。どこにもいかないでと、子供の姿のククールが泣きながらすがりついているような気がした。そう、怯えているのだ。怯えていたのは私だけではなかった。彼もずっと怯え震えながら、自分を抱いていたのだ。いつ私が逃げ出すかと…彼を一人おいて逃げ出すのではないかと…「―――――怖かったの…?」互いの口唇の隙間で、必死で紡がれた言葉にピクリと反応したククールの動きが止まり、ゆっくりと唾液の糸を引きながら顔を離した。間近に見つめあう。怯えた目。困惑の目。己を恥じている目。それでも救いを求めている子供の目。ククールは泣かなかった。そして唐突にゼシカの瞳から一筋の涙が流れ落ちた。その雫を舐めとり、ククールは堰を切ったように再び激しくゼシカの口唇に噛みついた。抵抗できなくなったのは、決して快楽に支配されたからではない。ゼシカは今それを知った。この人を、こんな風に抱きしめてあげたかった。胸のどこかに封じられてしまった彼の本来の優しさや悲しみを、もっともっと知りたかった。だから離れられなくなった。例えどんなに強引に抱かれても…どうしてもこの人をおいて、逃げられなかった。 それだけで達してしまいそうな濃厚なキスの余韻をお互い引きずったまま、ククールは荒い息と口づけをゼシカの首筋や肩に注いでいく。「ククー…ル。私…わたし、………逃げないよ…にげないから…」彼の力はやっぱり強くて痛くて、ゼシカは小さな声で訴えるがククールは聞こえないフリをする。ローブの合わせ目に手を入れてずらし、片方の白い肩と乳房を露わにした。肩に近い腕の上方に深い傷が現れ、ククールは動きを止めた。そこは清められてはいるが薬も包帯も施されず、明らかに痛みと熱をもっている。当たり前だ…これが、ゼシカが今夜この部屋にくるための「口実」だったのだから。……そして自分が彼女を抱くための。ククールはほんの刹那口唇をかみしめ、そっとその傷に口づけた。ゼシカが困惑しているのが伝わる。この傷を今治してしまえば、今夜自分たちがセックスをする理由はなくなる。その通りだ。自分達は恋人同士じゃない。愛を誓い合ってなんかいない。――それでも。傷口に口唇から直接回復呪文が注ぎ込まれ、ゼシカは切なげに目を細め背筋を震わせた。淡い光に包まれ癒されていく自分の身体。そう、最初にククールがこの行為に及んだのは、彼が優しい人だったからだ。彼の回復呪文は優しさの表れだとゼシカは思った。そしてその恩恵を受け取ることがいちばん許されているのは、きっと自分なのだろうと。そのことがこんなにも嬉しいなんて。…今気づいたんじゃない。忘れていた…ククールの口唇と舌が、傷から逸れ腕を這い、胸の盛り上がりを縁取るようにくすぐりはじめると、ゼシカの頭の中はしびれたように麻痺していく。たったこれだけの戯れに息を乱すなんて。どうしよう。羞恥とは違う、疼くような感情に戸惑う。幾度も望まない行為を続けてきて、いまこの瞬間にはじめて、ゼシカは心からククールに抱かれたいと思った。そしてそれはククールもまったく同じ。ただひたすらにゼシカを抱きつくして、この清純で淫乱な白い身体を自分だけのものにしたかった。辱めるのではなく、慈しみたかった。口実はもう存在しない。欺瞞はもう必要ない。ここにあるのはようやくさらけ出した本心だけだ。「逃げない」と言ってくれた彼女を、その真意を、言葉ではなく身体で実感したかった。ずっとお互いが本音を押し隠したまま、意味のない行為を繰り返していた。でもきっと最初からわかっていたんだろう。「究極魔法」が、自分達の間でしか効果を示さないただ一つの理由を…